Into the Andes: Chapter Two
父と息子の大冒険
手書きの標識がコンフリエンシアへの道を示していました。そこでは2つの川が合流し、廃れたガソリンスタンドしかありません。周りの地形は乾いた石や岩が多く、低い草木と茶色の景色が広がっています。小さい方の川に沿う未舗装路を夕日に向かって走り出しました。数キロ先には広い谷が見え、ぐんぐんと標高をあげていきます。苦しい5キロの登り坂を終え、進行方向を北に向けた瞬間、風は追い風となり気持ちよく進むことができました。そして楽しみにしていた街に到着。パソコルドバです。
40日間の旅はアルゼンチンからチリまでの約2,100キロ。予定しているグラベルロードはカルチュアルな深い山道です。アンデス山脈では最も過酷とされる険しい道です。 その夜はパソコルドバでキャンプし、翌朝すぐに登り始めました。しかし標高も高く、道も細くなり、思うように進むことができません。あっという間に暗闇がやって来るのです。さらに水も底をつき小川で足を止めましたが、土手にミツバチの群れがいたため、急いで退散。砂の斜面に囲われた僻地を見つけ、暗くなる前にそこにテントを一夜を過ごすことに決めたのです。
「アンデス山脈では人生で最も過酷、それでいて最も走りがいのある道に出会いました」
この日の夜は、精神的に苦しいものでした。真夜中、茂みの中から動物の声が聞こえ、気温は-6度近くまで下がりました。夏服しか持っていない私たちは寒さに耐えなければなりませんでした。夜が明けるとすぐに水を汲み、太陽の光に当たるまで服を何枚も着て走り続けました。正午になる頃には気温は一気にあがり私たちは峠に立ち、尖った山の下に続く過酷な道のりを眺めました。
この景色を眺めると、ここに来るまでの疲れやつらい道を乗り越えた甲斐があったと感じました。私たちはこの計画を何度も考えていたとき、車やトラックの必要性に幾度となく心を奪われたのです。しかし、挑戦した者しか得られない価値のある経験ができたのです。自然が作り出す壮大な地形と、それに対する人間の小ささを感じたのです。
パソコルドバの登りに挑戦したことは正解でした。チリに渡って太平洋まで出て、この日に約190キロ走りアンデスに戻りました。アラウカニア州の火山地域には枝がぎっしり詰まった幹が太いチリマツが多く散在しています。朝の霧がまだあるうちにメリペウコの町を出発しました。スムーズなダートを進むと、緩やかな坂が待っていました。数年前の火事で燃えてしまったチリマツに囲まれながら、ルカは太陽の光を浴びて走り続けました。坂を上り終えると、村のマーケットで買ったサラミとゴーダチーズを木の木陰で食べて休憩しました。
ロンキマイまでの乾いた砂の長い下り坂は、この旅でのハイライトと言えるでしょう。ロンキマイ火山の上を2日間走り続け、チリで最も大きなダムへ到着しました。ボルカン・ロンキマイへの道には2つの長い登り坂がありました。最初の坂で荷車を引いた2頭の牛とその飼い主に出会いました。その道は緑豊かな渓谷で次の坂へと続きました。黒と茶色の石で埋め尽くされたロンキマイ山頂は雪で覆われていたのです。ルカは数キロ以上先に登り、標高1,800メートルまで到達。山の背では背中に強い風が吹きつけ、体が揺らされるほど激しい突風を受けるときがありました。
1日6~7時間以上乗ることも日常的になり、長時間走るリズムにもだんだんと慣れていきました。休憩ポイントでは、水分補給やワッフルを口にすることくらいで、短めに済ませることが常でした。ロンキマイの山頂の下へ続く道の景色があまりにも美しかったため、なかなか出発できません。30年前の1989年に噴火した火山のマグマが山の北斜面を流れ谷底が黒い岩で埋め尽くされているのです。1時間以上楽しく下り続けマグマの流れが止まった場所に到着し、そこで休むことにしました。午後遅くだったため、その道に他の旅人はいませんでした。荒く大きな砂の道を1キロ以上走り、バイクを木に止めサラミとレンズ豆の缶を温めて食事をしてから寝ることにしました。
「1日6~7時間以上乗ることが多く、長時間走るリズムにも慣れてきました。」
今回、ルカは同じような旅をした友人から受け取ったGPSデータと、グーグルMAPを使ってルートを作りました。データ上、ボルカン・ロンキマイからビオビオ川の下流までは、楽しみながら走れると思っていました。しかし途中には大きなダムがあり、標高610メートルまでの激しい25キロの坂道を走らなければなりませんでした。そのあとの狭いトレイルはバイクを押して進むしかありませんでした。途中、森の上でタカがエサを探し、牧草地の隣の道で2頭の羊がツノで何度もぶつかり合っているのを見ました。しかも、かなりの至近距離で。トレイルは、斜度30%以上の急勾配でした。サラミ、チーズ、クラッカーが少なくなり節約を続けていたため、私たちはお腹が空いていました。暑い中、ハンドルバーを握りバイクを山に沿って押し続けました。疲れて、汗をかき、道もよく分からず、ゆっくりと進んでいきました。 つづく。
「疲れて、汗をかき、道もよく分からず、ゆっくりと進んでいきました。」